疾走する魔法少女のカランビット! 『魔法少女特殊戦あすか 01』感想

魔法少女にこんな残酷な運命を背負わせるなんてひどいよ! あんまりだよ!」
この漫画の虚淵玄さんの帯にあるコメントである。

それを見て読む前の俺
「ハハハ、おまいうかよ。大体、魔法少女が酷い目に合うのなんて、それこそまどマギの大ヒット以降、珍しくなくなったじゃないか。いくら目を惹かせる為の帯コメントだからって盛り過ぎですわw」
という経緯の末、読んだ後の俺
「ひどいよ!! あんまりだよ!!」

さて、この『魔法少女特殊戦あすか』(月刊ビッグガンガン)

魔法少女特殊戦あすか(1) (ビッグガンガンコミックス)

原作は深見真さん、作画を刻夜セイゴさん、軍事設定協力に田中尚也さんが入って強力にビルドアップされた、ミリタリーテイストの魔法少女モノ漫画になっております。
原作者の深見真さんといえば、前述の虚淵玄さんと組んで脚本を書いた『PSYCHO-PASS』、前期に話題になった『がっこうぐらし!』、今期は『ゆるゆり さん☆ハイ!』に入っており、最近はアニメの脚本で名を馳せていますが、元々はラノベやその周辺を主戦場としている作家さん。
この漫画のように『ちょっとかわいいアイアンメイデン』(4コマnanoエース)や『マーメイド・ラヴァーズ』(コミックアース・スター)など、漫画原作を担当することも増えていて、いろんな場面でその名前をお見かけすることが増えてファンとしては嬉しい限りです。
そんな深見真さんの元々の主戦場であったラノベでは、これまでも『僕の学校の暗殺部』(ファミ通文庫)や『GENEZ』(富士見ファンタジア文庫)など、血と硝煙の煙る、且つ、キャラが酷い目に合うような作品はある意味お馴染みとなっておりw、こういった作品だったとしてもそれほど驚きはないのですが……今回のこの作品はなかなかどうしてと言いますか、いつにも増してエグいなと感じた次第です。

お話の舞台は、地冥界(ディスアス)の魔物の侵略に救世主として現れた魔法少女によって救われた後の世界、ということになります。
救世主となった複数魔法少女のうちの1人……それがタイトルにもなっている主人公の魔法少女あすか、となるんですが……前提である地冥界の魔物との戦いも一部始終描写されていて、これがまた凄惨。あすかが魔物に仕打ちを受ける場面があるんですが、これがもう「えげつない」ってこういうことをいうのかと妙な関心すらしてしまう場面でした。
そんなこんなで人類を救った後、あすかは魔法少女を引退し日常に戻ろうとするのだけど、人類を救う強大な力を持った魔法少女は周りが、状況が放っておいてはくれず、戦いに引き摺り戻されていく……といったところが1巻のお話、というところでしょうか。

自分が特にエグいと思ったのは、日常に戻りたいと思ったあすかが戦いの場に引き摺り戻される場面。
その場面もまた凄惨ながら、だからこそ魔法少女として、スーパーヒロインとして君臨したあすかは、美しく、また強い……が、見ているとどこか儚く感じて、切ない気持ちになる。
その後、当時の仲間の魔法少女の1人、くるみとの再会もあるのですが、これがまた、色々な観点でヤバイ……。

……まぁ確かに不穏な雰囲気の表紙だし、虚淵玄さんの「ひどいよ! あんまりだよ!」の帯コメントがあるとはいえ、ページを開けば巻頭のカラーページはあすかの変身シーン。それは、わりかし「魔法少女!」て感じの絵とノリで、まぁひどい魔法少女モノと言ったってこのノリではあるよな……と思ったところで、よくよく見てみると、あすかが変身に使うアイテムは、カランビット、ですからね。
ミリタリーナイフで変身する魔法少女。作中でもチラリと描写されてましたが、この世界の魔法少女アイテムのビジネス、少し気になるところですw

そして、深見真さんといえば百合(断言)。
前述の通り、今期はゆるゆりのアニメ脚本に入っておりますし、そもそもの百合姫の方で表紙絵に付属する小説も書いてたりもしました(カズアキ✕深見真『GIRLS UPRISING』としてまとまっています)。ラノベの方でも様々な作品で百合な女の子が登場します。この作品でも、直接的な表現はありませんが、その片鱗はプンプンと感じさせてくれていて、先々が非常に楽しみなところです。
あと、Rebisさんとのトークショーに参加した者としては、メインの登場人物に褐色少女が出てきてるのが、非常に気になっています!w

また、深見真さんの魔法少女モノといえば、Twitterで連載し、ドラマCDにもなった『拷問魔法少女ドゥームズディあやね』も記憶に新しいところ。
ドゥームズディあやねは、タイトルの通り拷問をする魔法少女のお話で……1話を雑に説明すると、ヤクザの「後始末」の場面に、人間を処刑する悪い魔法使いが出現しヤクザが襲われるのですが、そこで「まっすぐつらぬく信念の暴力!」と魔法少女あやねが現れて悪い魔法使いを追い返す……事件は解決と思ったら、生き残ったヤクザを拷問して帰るという酷く最高のお話で、あすかとは大分ノリは違うんですけどもw
以前『アフリカン・ゲート・カートリッジズ』(角川書店)と『疾走する思春期のパラベラム』(ファミ通文庫)で、ほんの少しだけですがクロスオーバーする場面があったのもありまして、『魔法少女特殊戦あすか』と『拷問魔法少女ドゥームズディあやね』でも、少しだけでいいので何かやらかしてくれないかなぁと淡い期待をしていますw

大好きな作家さんということもあって深見真さんの話ばかりになってしまいましたが、刻夜セイゴさんの作画がまた素晴らしいです。
少女たちの可憐さや可愛さは勿論、危うさみたいなのがとてもよく出てますし、バトルの迫力やちょっとグロい場面の臨場感で、作品の世界にグイグイと引き込まれていきました。
サッチュウの挙動やカバー裏あたりのかわいらしさや馬鹿馬鹿しいノリの漫画も楽しいのがまたいい。

と、まぁそんな感じで非常に楽しい1巻でしたが、やはり、1巻。まだまだ導入部という感じでもあって……どう考えても魔法少女たちは様々にいろんな目に合うし、それを深見真さん、刻夜セイゴさん、軍事考証に入っている田中尚也さんを含めて、これからどう見せてくれるのか凄く楽しみです。