強襲する衝動と郷愁うる情動 Gusanos『Life Chord』感想

聴いたのは残念ながら年明けてからだったのだけどw、2015年の10月発売なので、個人的な2015年によかったアルバムの1つに挙げたい。

Life Chord

Gusanos
Tomohiko Horai:Vocal
Yuji Tsujitani:Guitar
Tomoyuki Ose:Bass
Yoshiki Daimon:Drums
の4人からなる京都を中心に活動するバンド。たぶん、この4人にサポートギタリストを1人入れて基本的には5人でレコーディングやライブをしてる感じですかね。
個性的なメンバーが、それぞれ反応しあって極上に叙情激情なハードコアを鳴らしてくれています。

不勉強で知らなかったのだけど、結成10年で、このアルバムが初のフルアルバムとのこと。音を聴くと、ここまで10年かかったというのが、わかるようなわからないような感触。勿論、悪い意味ではなく……つまり、10年かけて育ててきたバンドの音と言われれば納得の高クオリティだし、それだけに、これほどのバンドがこれまでフルアルバムを出してないというのもまた信じられない、という感想も同時に浮かんでくるのだ。まぁメンバーの脱退やらなんやらで色々あったという情報は見かけたし、インディーズバンドだとそういうこともままある話ではあるのだけど、それにしても……である……と言わずにはいられないほど素晴らしいアルバムに仕上がっています。
ちなみに、レーベルはmkYENban……nervous light of sundayのボーカル、亀谷さんのレーベルです。そのレーベル第一弾が、このGusanosのアルバムになっています。

掴まれたのはやはりMVにもなっている『town light』。

正月に田舎に帰って暇な時にツイッタ眺めてたら、ふとGusanosのこのMVがリンクされたツイートが流れてきて……年明けの初台WALLでのレコ発の告知ツイートだったと思うけど、ナーバス出るしちょっと気になってたんだよね……みたいな感じで、なんとなく気軽な気持ちでクリックした。
衝動的に疾走するスピーディな序盤、夕暮れのような寂しさをも感じさせる後半のギターの旋律、そのドラマチックな楽曲の展開を彩る感情を絞り出すかのようなボーカル。
衝き動かされるかのように郷愁の感情を煽る響きに見事に誘われ、わけもわからないまま涙が後から後から零れ落ちる落ちる。田舎に帰って来てるのに特に何事もなく家にいて、ちょっとおセンチな気分になっていたとか、単純に年齢的に涙もろくなってるとかもあるかもしれないがw、誰か見てたらちょっとヒくぐらい涙出してたと思う。
あくまで個人的な印象ですが、自分が好きなエモーショナル・ハードコアや叙情ハードコアといったジャンルに区分けされるようなバンドは、無遠慮に人の心の引き出しを開けていくので困る。いやバンドに責任はないんだがw
ともあれ、そういったバンドの音は、青春や思春期の頃のような衝動性や青臭さといったモノを感じさせるのは勿論なんだけど、どこかでそういうモノを冷めて見ているような視点があって……それでいてまた、それを懐かしみ愛おしいと思うような気持ちも感じられ……二重三重に捻れていて、それらが複雑に絡まり混ざり合って交錯し、歌に、音に乗せて爆発させているような、そんな感触が自分にはあります。
そういった音の響きに感情のあちこちが引き摺り出されて「エモい」と思わされるのかな……などと思うのですが……こういうことを他の人と話したことがないので、他の人にも適用できるかどうかはわからないw
ともかく、この『town light』は少なくとも自分のそのへんのポイントに素晴らしくグサグサと突き刺さったのです。Gusanosのグサはエモいところにグサグサ突き刺さるのグサです。※違います

街はいろんな人間が集まって出来ている。親しい人も知らない人も、好きな人も嫌いな人も、良い人も悪い人も、出来た人もクズの人も、老若男女あれこれ揃う。そういうあれこれが街を形作っている。そんな街の、日の沈んだ暗い時間に灯される光の下には明るく照らされる場所を作ってくれるのだけど、暗い時間に更に暗い場所をも同時に作るのもまた、街の灯だ。
胸を張って大好きとは言い辛いし疎ましく思うこともあるけれど、憎みきれずなんだかんだと愛おしいと思わざるを得ない、かつて過ごした街への愛憎入り混じった郷愁を惹起するこの曲は、自分の心の中にある街の情景を照らす灯そのものになっているのかもしれない。

そういうわけで『town light』にすっかり心奪われてしまって、帰京してすぐにdisk unionでこのアルバム『Life Chord』を買って聴いたわけですけども……まず、優しい音色のギターに包まれた1曲目『days gone by』の中をつんざく咆哮にノックアウト。優しい聴き心地の演奏の中で響き渡るスクリームは絶妙な塩梅で耳を惹きつけてGusanosの世界観に引き込んでいく。心地よい余韻をもたらしながら続くのは『town light』。年明け、1月23日に初台WALLで行われたレコ発ツアーのライブでもこの2曲からの始まり方で、たまらないものがありましたね。

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その『town light』の余韻がさめやらぬまま3曲目『the state of dreaming』、イントロのスネアとタムの音とバスドラの心地よいリズムが印象的で、ギターが入ってきた後のキメがとんでもなく気持ちよく、非常に快楽性の高いインスト曲。短いナンバーだが非常にいいスパイスとなって4曲目『beautiful magic』に繋がれる。魔法にかけられたかのようにノリが良く気持ちいい。終盤の4つ打ち……ではないけど……ギターのカッティングは快楽性高い。
そして、この1曲目〜4曲目の流れが非常に素晴らしく、1つの組曲のように感じるまである。ここまで聴いてもう完全にGusanosの虜になっていましたw
5曲目『revive』は、わかりやすいブレイクダウンパートがあり、このアルバムで1番ハードコアバンドらしい曲。
1月23日のライブではアンコール曲として最後の最後に演奏されたけど、フロアは激しいモッシュでしっちゃかめっちゃかでした。足が飛んできたことは覚えていますw ハードなだけでなく美しい旋律も聴かせるのは流石。
ボサノバ調に始まる6曲目『crossroads』は、洒落乙な序盤からの、ぶちまける激情が頗るかっこよく、終盤につれて高揚していくのがまたとても気持ちいい楽曲。
そんな高揚しきった気持ちを、再びトップスピードにギアを入れてくれるのは7曲目『grief and smile』。イントロの躍動しまくるシンバルとハイハットの音と、焦燥感を煽るギターの響きが前につんのめりそうになりそうな疾走感を演出していて無茶苦茶かっこいい。
8曲目の『from the identity』は、個人的にこのアルバムで1番ポップな曲に感じる。序盤の高音のギターの音とライドの組合せの瞬間とか、凄い好きw
9曲目『happy ending to you』はギターの音色の美しさが印象的なインスト曲。そこから、ラストナンバー『and walk』に導かれる。
前述の初台WALLでのライブでも本編最後を飾った楽曲。MVというわけではないけど、ライブ映像でYouTubeがあります。

ここまで聴き応えのある曲ばかりのその中でもラストを飾るに相応しい、軽やかで美しいギターの旋律にGusanosというバンドのしなやかな強さを一際強く感じる曲。最後の最後のシンガロングしたくなる咆哮とそれに続くギターのリフがまたたまらない。自分は前述のライブで体験しましたが、是非ともライブで体験してもらいたい一曲。

全体としては前評判の通り、叙情的であり、ハードコアであり、ニュースクールであり、童謡やボサノバのようなフレーズを使った曲があったりと、色んな要素が垣間見えるのだけど、その中でもGusanosというバンドの個性は存分に発揮していて、その上で一辺倒にならずにバラエティに富み、聴く者の耳を飽きさせない。
というか、おそらくAメロ→Bメロ→サビというような定形の構成を放棄していて、Aメロ→Bメロ→間奏→Cメロといった様相で、それが楽曲の起伏をより強調して起承転結が起こっているかのような、そんなストーリー性を感じさせるモノになっているように思う。
一部では「ジブリハードコア」と言われているとのことで……言われてみると久石譲テイストはたまに感じるかも。ジブリというよりは、自分のイメージだと北野映画の音楽のそれの方が近いかなという気はするけど……久石譲の音楽をそれほど熱心に聴いてはいないのでそのへんは何とも言い難いw ともあれ、映画やアニメのようなドラマチックなストーリー性を感じる楽曲は、ジブリハードコアとでも言いたくなってしまう気持ちもわからなくもない。
楽曲の上質なポップさ……間口の広さもそれを後押ししているのかもしれない。音・歌のハードな感触はハードコアバンドのそれそのものだけど、聴いて感じる軽やかさや心地よさはハードコア界隈のファンだけでなく、いろんな人の耳にいい印象を残すのではないだろうかと思う。
最近のエモ/スクリーモ界隈のバンド……ワンオクやラスベガス、SiMといったバンドのファンには勿論聴いてもらいたいし、BRAHMANバンアパドラゴンアッシュのように昔からミクスチャーやらメロコアやらポストロックやら聴いてるよって人にも聴いて欲しいし、はたまたハードな音を鳴らすビジュアル系が好きな人たちなんかにもオススメしてみたいし……というように、とにかく様々な人たちに是非とも聴いて貰いたいバンド。何かを感じてもらえるのではないかと思います。
そんな感じで、幅広い人たちに向けて届くと思えるポップな間口の広さと、その上で何度も聴いてしまうような彼ら特有の奥深い個性とが十二分に発揮されていて、素晴らしい1枚に仕上がっていると思います。

と、そんなGusanosのアルバム、リリースツアーファイナル東京編が4月17日に新宿ANTIKNOCKで、京都編が5月14日に京都GLOWLYであります。
東京編はbachoMEANINGを迎えて、レーベル主の亀谷さんのnervous light of sunday、そして勿論、Gusanos。
京都編はBURNING SIGNHELLNETo overflow evidenceVision of Fatimaに、nervous light of sundayにGusanos。
どちらも非常に激アツな面子。お近くで都合が合う人は是非にも。少なくとも、うるさい音を鳴らすバンドが好きな人はまず損はないと思います。

個人的には、今回はGusanosの物販で何か買うと特典に付けてくれるデモCDに入ってる『seasons』が聴けるといいなーと思ってる、というか、この『seasons』もまた素晴らしいので、ライブ見て気に入ったら物販で何か買ってデモ貰うといいですよ。つーか、もっと言えば何故『seasons』はアルバムに入れなかったのか。
Σ( ゚д゚)ハッ! これって、もしかして近々2ndアルバム制作開始の報が聞けるのではないだろうか。やったぜ!